浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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英国の社会 - 中流階級と労働者階級1

英国は昔から、階級社会と言われている。それについては多くの人々が、様々な分析や考察をしていると思うが、私は生活感覚としての階級社会を、紹介したい。主に私の若い頃の話なので、現在は少し変わっているかもしれないが、英国の社会の変化は、それほど速くないと思う。

 

 

職種による区別

 

英国滞在中、私の交友範囲は大学にかなり限定されていたので、英国の社会について公平な観点から紹介することは難しい。階級の問題はデリケートなので、友人にもなかなか気楽に聞けなかった。それでも滞在中に、ある程度の感覚は持てるようになった。

 

英国の社会も、見たところ、日本の社会とそれほどは変わらないが、人々の意識として、中流階級(middle class)と労働者階級(working class)の区別が厳然としてあるように思われる。

 

階級差は当然、収入差とも連動するが、収入格差と階級差が同一と見做せるか、というと、必ずしもそうではない。相続によって不動産を代々所有している人々は別として、職業に就いている人々は、収入より職種で区別されているように思われる。英国政府は職業の分類を class1からclass6まで行い、公的に発表していた。

 

「職業の違い=階級の違い」ということなら、職業差別が存在する社会なのか、ということになるが・・・ある程度イエスと言わざるを得ない部分はあるが、差別という感覚とはやや異なる。職業のクラス分けを発表した政府の意図はわからないが、現実に自動車保険のリスクの見積もりや、住宅地域の価格差などに反映されている。職業によって保険料が違うのは差別ではないか、と言えば然りであるが、統計に基づく客観的なデータというのが、保険会社の言い分である。

 

炭鉱や鉄道で働く人々は miner worker, railway workerと呼ばれ、報道番組などでもworker を付けて、労働者階級としての呼称が使われる。社会的には尊敬されている(と私は思っている)救急隊員も、 rescue workerと、同様の呼称が使われる。

 

この他、"worker"は付かないが、看護士、トラック運転手(Lorry driver)、庭師(gardener)など、日本ではかなり時給の高い職種も含めて、立ち働く姿が容易に想像される職種は、労働者階級と見做されているように思われる。デスクワークなどは働く様子を見ただけでは職種がわからず、これが中流階級のイメージである。

 

中流階級は(今度は収入によって)、upper middle と lower middle に分かれる。lower middle の収入が労働者階級と接近してきたため、経済的には区別が曖昧になっているように思われる。ただ、ライフスタイルや人生に対する考え方において、中流階級と労働者階級は分かれ、それぞれの帰属意識につながっているように思う。

 

 

パブとラウンジの違い

 

顕著なのは、パブに行った時である。パブに誘うのは、ほぼビールを飲みに行こう、という意味である。量の単位であるパイント(大ジョッキ1杯)を使った Would you like a pint ? という表現がある。パブでウィスキーやブランデーを飲む人は少ない(ワインは女性が結構飲んでいる)。とくにウィスキーは、ビールに比べるとずっと高いので、飲む人は非常に少ない。

 

正確に言うと、パブは労働者階級の人々がビールを飲むところで、中流以上の人々が飲むところは、ラウンジと呼ばれる。ここで違いが現れる。多くは、入り口が共通で、中に入ると左手と右手で、パブとラウンジに分かれる。

 

やや驚くことだが、大学のキャンパス内にもパブがあった。しかも昼休みから開いている。village(昔からの住宅地)にも必ず、教会と郵便局の他に、パブとパン屋が一軒ずつある。このようなところでは、パブとラウンジに分けずに、共通してパブと呼ぶ。最初のうち、私は飲むところはすべてパブだと思っていた。

 

パブとラウンジに分かれているところでは、パブの方は人々でごった返し、猛烈な騒音で話もできないことがある。そもそも、通常の日本人の服装で行けば、人々は親指でドアの方向(つまり反対側のラウンジの方向)を指し示し、「お前らはあっちだ」と追い返される。

 

一方、ラウンジは別世界で、人数は少なく、信じられないほど静まり返っている。日本のバーをずっと広く、照明を明るくしたイメージである。東洋人が入ると、人々が一斉に振り向き、「ここはお前の来るところかよく考えろよ」と無言のメッセージを送る。日本の居酒屋のように、大きな声で話せば、すぐさま追い出されることは間違いない。

 

パブとラウンジで、料金に非常に大きな違いがあるわけではない。ラウンジの方が2割から最大で3割程度、高かったように思う。その差は重要な差かもしれないが。

 

 

金曜日のパブには近づくな

 

このようなところのパブに初めて行ったのは、金曜日の夕刻であった。結局、追い出されてラウンジに言ったが・・・その体験をY教授に話したところ、パブに2種類の意味があることを説明され、ラウンジと区別する意味で「パブ」と表示されている場合には、ラウンジを選ぶようにアドバイスされた。

 

とくに「金曜日のパブに行ってはいけない」と注意された。このとき、英国の給与方式についての話を聞いた。大学では、私は月給として給料を貰っていたが(ボーナスは無い)、月給は比較的給料の高い職に限られ、労働者階級の賃金は必ず週給だそうである(私の給料が高い方に入っていたとは!)。そして金曜日は、彼らの給料日である。

 

週給としているのは、彼等が一度に使いすぎて生活破綻を起こしたり、その結果、犯罪が増えることを防ぐために、少しずつ渡すのだそうである。「彼らは、金を手にした日にはパブに直行し、したたかに飲んで騒いで・・・喧嘩して・・・夜遅くに家に帰ってワイフを殴って・・・金曜日はそういう日なので、喧嘩に巻き込まれないように、パブに近づいてはいけない」 ということであった。

 

 労働者階級について、余り印象の良くないことを書いたが、Y教授は差別意識を持っていた訳ではない。家に帰ってワイフを殴る・・・というくだりも、明るく笑いながら話していた。

 

Y夫人は、もともと看護婦さんであり、彼女の父親は、彼女の働く病院の庭師だった。つまり、典型的な労働者階級の人々である。ただ、結婚後も同じ考え方、同じライフスタイルを維持していたわけではないと思われるが・・・

 

階級によるライフスタイルや人生の考え方の違いについては、別の機会にもう少し書くことにしよう。

 

(続く)