浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

~記事へのコメントは歓迎です~

英国の社会 - 中流階級と労働者階級2

1から続く

 

デスクワークは人生ではない

 

2つの階級には、それぞれ帰属意識がある、と書いたが、そのルーツは民族差だと聞いたことがある。歴史に詳しい方がおられたら教えて頂きたいのだが、征服民族と被征服民族、ということらしい。それが様々な考え方の違いに繋がっているのかもしれない。 

 

自らを労働者階級に属していると考えている人々は、日の当たるところで体を使って働くのが、真の人生である、という哲学を持っている。彼らにとって、デスクワークなどは本当の人生ではないのである。

彼らに最も人気のある仕事は、公園やロータリ―交差点(ラウンドアバウトと呼ばれる)、あるいは大通りの歩道などに設けられている、花壇の管理である。自分の受け持ちの花壇を美しく保つことを、彼らは誇りにしている。彼らの仕事中に「綺麗ですね」と声をかけると、非常に嬉しそうな顔をする。しかし、外国人労働者の進出もあって、当時すでに、そのような仕事は希少になっていた。

彼らはデスクワークを嫌い、教育や資格の取得に関心を持たないため、いったん職を失うと再就職の機会が乏しい。そして社会保障の助けを受けることが多くなり、社会のお荷物と見做されるようになった。これが階級対立を、やや先鋭化している。労働者階級は少数派なのである。

 

 

中流階級とスノーブ

 

生活面では、彼らは飾る事を嫌う。雨の日でも傘はささず、降りが激しければポンチョを着る。日本人の若者が、シャツにアイロンをかけたため、それまで親しかった労働者階級の友人たちから「スノーブ」と呼ばれ、冷たくされるようになったと話していた。

この言葉は特別な意味を持ち、英国人は階級を問わず、このように呼ばれることを非常に嫌う。言われた時の精神的なダメージは大きいようだ。

 

英国滞在中に何度か、パーティに招かれたり小さな行事に参加して、この言葉に該当すると思しき人々と知り合う機会があった。主に裕福な高学歴の中年女性であったが、常にドレスアップして上流階級であることを隠さず、加えて、例えばオックスフォード訛りを殊更に強調するといったような、ある種の共通する特徴を持つ。

初対面の相手に対しては(とくに東洋人に対しては)、慎重に品定めした上で、接する態度を決める。英国人同士であれば、彼らは一目で相手を見定めると言われる。私はこのような席では、大学が招待したゲストとして紹介されたので、概ね丁重な対応であったが、日本人でない(とくに旧植民地からの)人々の中には、気分を害する人々もいたようである。

 

英国社会には、今でも貴族階級が存在する。このような人々は、どのような態度をとろうと、スノーブと呼ばれることはない。この言葉の語源は知らないが、市民社会が形成され始めた頃、財を成した者が貴族階級の服装や態度、ライフスタイルを真似して人々から嫌われ、貴族からも軽蔑されたのが始まりではないかと想像する。少なくとも語感として、そのような響きがある。

・・・そういえば、これを逆手にとった「スノーブ」という名前のメンズファッションの店があった。

 

 

 独立と生計

 

英国人の大半は18歳になると、親と生計を分ける。大学生は奨学金を貰うので、学生でも基本的に生計は別である。18歳になって学籍も職も無ければ、社会保障により生活保護費が支給される。したがって親も個人の人格を尊重し、口煩く説教をすることも無くなる(もともと英国人の親はほとんど説教をしないが)。

労働者階級の場合には、独立が少し早い。日本で言えば高校1年生の終わりごろになると、彼らはパートナーを見つけ、親元から離れて仕事を始める。

シティーホール前の屋台広場に、新しく八百屋が出店されたことがあったが、まだ体も小さく、完全に子供と見える男女が、真冬の早朝に準備のため立ち働く姿を目にした時は、胸の塞がる思いがした。 

 

ちなみに、労働者階級には小柄な人々が多い。ビールのコマーシャルで、パブとラウンジのシーンがあったが、服装だけでなく、人々の体格差を際立たせていた。ケンブリッジ大学のセミナーに招待された時、案内をしてくれた大学院生は、キャンパス内のチューター用戸建に住んでいたが、立派なエントランスの横に(今は使われていない)サーバント用の通用口が並んでいた。日本人としても身長の低い私でも、首をすくめなければ通れない低さであった。

 

民族差だけではなく、独立する時期が早すぎるのが、体格差にも影響していると思うが、学校は、いつやめても良いのである。一応、O-レベル(ordinary level)と呼ばれる共通試験を受けて、中等教育(secondary school)を終了した認定を受けることになっているが、これに合格する人はごく一部で、合格していても国語のみ、という場合が殆どらしい。中流階級も含めて、大半の人々が、O-levelの試験を受けずに学校を去る。ちなみに、ダイアナ妃もO-levelを通っていなかったそうである。 

大学に進学するには、O-levelの次に、A-level(advanced level)の試験を受けなければならないので、18歳まで在籍する。試験の内容は日本のセンターテストに近い。A-levelを受ける人々は国民の6%程度と聞いた。英国民の大学進学率は、ヨーロッパの国々の中では際立って低い。中流階級の子弟は、ほとんどがsecondary schoolの後、専門学校などを経由して仕事に就くようである。