浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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英国の暮らし - 財布事情と優先順位

お金を使う際の優先順位は、人生の優先順位を反映する。

 

 

私の観察では、英国人の場合、階級によらず

 

1.住宅

2.バカンス

3.食事

4.衣服

5.教育

 

の順になっている。日本人とは、ほぼ順序が逆の感がある。

 

1.住宅

住宅の順位が高いのは、誰でも家を持てるからである。

これは政府の優れた住宅政策の賜物であり、誰でも家を持てるシステムになっている(これについては別途紹介する)。家は日本のように中古になって値が下がることはないので(そもそも新築物件は滅多にない)、彼らは取得後も維持・管理に余念がない。

貯金の習慣がない彼らにとって、老後の蓄えとしても重要な資産である。生活ぎりぎりのローンを組み、また庭の花など、家を飾るためにも、かなり投資する。美しい家が並べばその地域の住宅は資産価値が上る。ローンを払い終えれば、すぐに売って大きな家に買い替え、資産を増やす。その時、家を良い状態に保っていれば、高く売れる。子供たちが独立し、大きな家が必要無くなれば、最後は小さい家に移り、差額が老後の生活費になる。

 

2.バカンス

 次にバカンスであるが・・・すべての人々が(奨学金で生活している学生であれ、失業者であれ)夏には必ずバカンスに出かける。行く先は、主に地中海沿岸である。これは英国に限らないのかもしれないが、他の国々の人々は、何が何でも毎年、というほどではないように思う。

ただ、日本人の旅行のようには、お金をかけない。例えばキャンプ地で、アウトドア生活を楽しむ。ヨーロッパでは高速料金はかからないので、これならガソリン代と、ドーバー海峡を渡るフェリーの費用だけで済む。車は、したがって、それに適した車種に人気が集まり、アウトドアグッズの中古品市場が活況を呈している。

団体のバス旅行など、若い人が安く参加できるツアーも多く、これはなかなかうらやましかった。独身時代であれば、私も楽しめたかもしれない。コンパニオン付きの高級ツアーとして日本で有名になった「地中海クラブ」などは、学生アルバイトを使ったお手頃価格の商品であった。

 

3.食事

一方、住宅の出費が大きいと、食文化の発展が遅れるものらしい。イギリスの食事の不味さは昔から有名である。

英国民は、食べることに過度に興味を持つのは卑しい人間であると、独自の哲学をちらつかせるが、ヨーロッパ大陸の人間から見れば、単なる痩せ我慢である。彼らにとって、不味い食事は恥であり、軽蔑の対象である。

彼らが良く口にする皮肉の一つに、英語独特の舌で歯を擦る発音(this, that, through, then・・・などのth)がイギリス人の舌をダメにした、というのがある。

 

4.衣服

食費にあまり費用をかけないほどであるから、身だしなみにまで出費できる人々は、かなり裕福ということになる。そのせいか、英国人は身なりで人を判断する傾向が強い。

邸宅と言えるほどの立派な家の玄関から、庶民的というのを通り越して、驚くほどアンバランスな出で立ちの主婦が出てくるのを目撃し、驚いて妻と顔を見合わせたことが何度かあった。

最近は若者のファッションも変わってきたが、日本人の着ている服は、彼らと比べれば高級品と言える。住宅と服装のアンバランスの度合いは、逆の意味で日本人の方が激しいかもしれない。ワンルームのアパートからドレスアップしたOLやスーツを着た若い男性が出て来るのを見れば、彼らはかなり驚くであろう・・・

長く暮らしていた日本人の話によると、新品の服を買ったことが無いという人々もいるそうである。確かに、古着コーナーは洋服店に必ずあったように思う。品質は、日本なら「古紙・古着」に出すしかないレベルであるが、それほど安くない値段で売られていた。

 

5.教育 

最後に教育であるが・・・ここまで金が廻る人は殆どいない。

以前、大学に進学する人は国民の6%程度と書いたが、入学試験がそれほど競争的ではないので、いわゆるボーディングスクール(寄宿舎制の私立学校)で学べば、ほぼ100%近く、大学に進学できる。このような学校に子供を一人預ける年間の学費は、私の手取り年収の7割に達していた。公的な中等教育が崩壊しているため、大学へのルートは、それ以外には殆ど無いのである。

 

産業革命の国」の威信をかけて、サッチャー政権は工業立国としての立て直しを図っていたが、高等教育を受けた理系の人材は、日本や米国より2ケタも少ない。驚異的な数のノーベル賞物理学者を輩出しながら、科学技術の人材は(少なくとも量的には)圧倒的に不足していた。政府は奨学金を用意し、あらゆる手段で高等教育を奨励していたが、殆どの人々は興味を示さない。まさに、笛吹けど踊らずである。

政府が何もしなくても、授業料も入学金も(そして生活費も)親が自腹を切り、若者が目の色を変えて受験勉強する国は、英国の政治家の羨望の的である。

 

住宅から教育まで、やや辛口に英国人の生活ぶりを紹介したが、詳しくは、それぞれまた書くことにしたい。