浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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英国の暮らし - 住宅編2

住宅(建物)の種類

 

英国の住宅は、ロンドンなど大都市では日本のマンションのような大型アパートもあるが、多くは「戸建て」である。

 

普通の一戸建は、detatched houseと呼ばれる。次に、2軒の家が壁1枚を共通にしたツイン住宅があり、semi-detatched houseと呼ばれる。日本でも、関西で「2戸1」(にこいち)と言われる住宅があるが、それよりはずっと大きい。最後に、左右の壁を隣家と共有する、フラットと呼ばれる棟割長屋がある。

日本で紹介されているところでは、フラットはマンションのような集合住宅、棟割長屋はテラストハウスとかタウンハウスになっているようである。確かに、平らな壁面が名称の由来、と言う説明は説得力があるが、地元の人々は棟割長屋をフラットと呼んでいた。こちらも、通りに沿って玄関側の面が揃い、見たところフラットである。マンションのタイプの集合住宅は、私の住んでいた街にはなかった。

 

以前にも書いたが、英国では新築の物件は殆ど無い。これはヨーロッパ全体に言えることである。新しく建物を立てる仕事は、建設業界の仕事の中で、割合が非常に少ない。改装が建設業の主な仕事である。スイスでの話であるが、10世帯ほどが入っているアパートの前を通りかかった時、どのくらい古い建物か尋ねたところ、「・・・まあ・・・200年までは経っていないと思うけど・・・」という答えであった。私には、せいぜい築20年程度に見えたので、非常に驚いた。

 

Y教授の話では、現在英国にある住宅は、ほとんどがビクトリア朝時代に建てられたものだそうである。「英国の富の大半はこの時代に蓄えられ、それが今も残っているので、経済が弱体化しても我々は何とか凌いでいる」と言っていた。

ビクトリア朝時代の建物は作りがしっかりしており、様式も豪華なので、新築の住宅より価格が高い。これから先の寿命も、新築より長いとの見通しである。

 

 

カウンセルハウスの賃貸

 

前回の記事で、自治体が人々に住まいを斡旋する義務を負うと書いたが、自治体が斡旋するのは、カウンセルハウスと呼ばれる自治体の所有物件であることが多い。これを賃貸として、市が貸し出すのである。その他にも、家を貸したい人は市役所に登録する事が出来るので、それらの物件が紹介されることもある。

 

カウンセルハウスは、かつて自治体が大規模に建設したフラットの場合が多い。恐らく、これもビクトリア朝時代の遺産であろう。建設当時は街はずれであったと思われるが、現在では比較的立地条件の良い住宅と言える。

通りに面して、同じ作りの家々の玄関が並ぶ。街の中心に近いところでは、通りから少し階段を上がって入口に達する作りが多いようである。そのような家は地下室(半地下で採光ができる)を備えている。各々の家の間口は狭いが、実はかなり奥行きがあり、住居スペースは広い。その延長に、これも細長い裏庭が付いている。庭を進むと、向い側の通りに面したフラットの裏庭との境界に達する。あちらは当然、玄関が反対側を向いているが、英国人は家の南向き、北向きなどは気にしない。

 

フラット以外にも、自治体は、常に手頃な物件を探し、購入してカウンセルハウスに加えている。家を探している人は、売り出されている気に入った家を見つけた場合、それを自治体に購入してもらい、自治体に賃料を払って、そこに住む事が出来る。この制度は、自治体が物件を探す手間を大いに省く。

自治体が買い取る価格については、日本なら適正かどうかの問題が発生し得るが、その心配はない。カウンセルハウスに限らず、不動産売買の場合には、常に国家資格を持つ不動産鑑定人が、近隣の相場や家の状態で価格を査定する。売り手と買い手がそれぞれ査定人を立てる場合は、価格の低い方を採用するのが決まりである。査定方法も評価項目が細かく指定され、実際には誰が査定しても、価格はほとんど一致する。

 

 

カウンセルハウスの購入

 

人々の最終的な希望は、家を購入することである。そして、カウンセルハウスに住む人は、これを購入することができる。自治体はそれを奨励している。

 

しかし、英国は、ローンの金利が恐ろしく高い。当時は住宅ローンの金利が17%程度であったと記憶する(12%の間違いだったかもしれない)。これで、どうやって住宅が購入できるか?

 

自治体は、まずカウンセルハウスの1/4の所有権を居住者に売る。第一次取得者が取得する住宅の価格は、おおむね(当時の為替レートで)500万円前後であったので、その1/4なら、高い金利でも何とか返済できる(その間、居住者はローンに加えて、残りの3/4について自治体に家賃を払うので、完全な賃貸より支払いが増える)。1/4のローンを払い終えれば、そのまま3/4の家賃を払い続けて住み続けることができる。そして、転居する場合には、部分的な所有権だけを売る事が出来る。買い手がつかなければ、自治体が査定価格で購入する義務を負う。

 

多くの人々は、できるだけ短期間に完済し、さらに1/4の所有権を追加購入する道を選ぶ。このようにして、居住者は1/4ずつ、最終的には完全な所有権を手にする。

 

新築住宅ではないので、家を持つ限り、維持費は恒常的にかかる。しかし、自治体に所有権の一部が残っている限りは、建物の基本的な維持はすべて、自治体の責任である。居住者の負担はない。建物の外側もすべて自治体の責任であるので、庭の管理費用も自治体が一部負担していたように思う。これらは居住者にとって非常に大きい。

 

自治体としてのメリットは、家の道路側の土地を所有していることである。家が個人の所有となっても、道路に通ずる玄関前のスペースは、自治体が所有していたように記憶している。これは都市環境の維持に非常に有効であり、所得の低い地域のスラム化を防ぐ。また道路の拡張工事や大規模な配管工事など、玄関前のスペースにゆとりがあれば、都市計画がかなり自由に実行できる。立ち退き料や迷惑料は発生しない。

 

かくして、棟割長屋のカウンセルハウスの多くは、今では個人所有になっている。労働者階級の人々は、若い時に頑張って共稼ぎでローンを払い、子供たちが独立すれば、妻は家を元手に、B & B (bed & breakfast)と呼ばれる民宿業を営むことができる。そのためにも、家は常に良い状態に保ち、美しく飾っておく。

 

(続く)