浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

~記事へのコメントは歓迎です~

英国の暮らし - 住宅編3

住宅のメンテナンス

 

イギリスの人々は、 ペンキ塗りや屋根裏の修理、朽ちた軒先の補修など、家に関する殆どのことを、自分で行う。

 

中古住宅の価値が下がらないのは、人々がメンテナンスのための労を惜しまず、また常に支出して、家屋を維持しているからである。維持を怠れば、支出以上に資産価値が下落する。彼らは子供のころから父親の仕事を手伝い、このような労働に慣れているので、腕前はプロと遜色ないレベルである(プロのレベルが高くないとも言えるが)。Y教授も、ペンキ塗りや補修は業者に任せていたが、煙突掃除、壁紙の張り替えなどを自分でやっていた。

 

大学で私と仲の良かった上級講師のP博士は、古くなった病院が建て替えられたとき、解体現場に行き、分解された床材の木製タイルを貰い受けて来た。再び組み合わせて使えるようにセメントの破片を磨き落とし、ニスを上塗りする。このような部材をかき集め、購入したばかりの農家の改修を行っていたのである。1年以上かけて、廃屋同然の古民家が、立派な邸宅に変身した。裏庭には広い果樹園があり、果樹が豊富に収穫され、多くの小鳥が訪れる。写真撮影が好きな彼は、窓から望遠レンズでバードウォッチングを楽しんでいた。家屋の維持管理は、彼等のライフスタイルと直結する。

 

友人のトラック運転手は、失業中に社会保障を貰いながら、自分でレンガを積んで部屋を増築し、資産価値を高めていた。社会保障を受けている期間は、収入を伴うアルバイトはできないので、これは合理的な利殖である。 

  

日本では、資格の無い者が日曜大工で増築するなど、考えられない。電気配線の工事をはじめ、工事の殆どは無資格では出来ないが、英国にはそのようなやかましい法律は無いので、何でも自分でやって良い。ただ、屋根瓦の交換や配管だけは、専門の職人を呼ぶ場合が多い。これは技術力と安全性の問題である。

 

 

ちなみに、英国の法律は人々の行動する権利を優先するので、何についても法的な規制が緩い。例えば、クローニングや遺伝子組み換えなど、バイオ関係の技術については、各国は開発に慎重で、どの国にも様々な規制があるが、英国ではほとんど自由である。そのため、英国には当時から、世界中のバイオ研究者が集まっていた。私の勤めていた大学にも、主要な遺伝子工学の研究センターがあり、多くのゲストで賑わっていた。

 

生活レベルの話であるが、日本の住宅地で問題になる騒音などでも、静かな生活を送る権利より、自由に音を出す権利が優先される。朝6時から夜12時まで、楽器などは自由に練習できる。英国人は騒音を気にしない、ということではない。彼等の多くは静かな生活を好み、隣が騒がしければ黙って引っ越すのである。

 

話が拡散したが、英国の法律については、また別の機会に述べることにしよう。

 

(続く)