浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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英国の暮らし - 職場の英国人

前回、英国人が怠け者というのは間違った判断である、と書いたが、英国で暮らした経験のある日本の人々は、大半が同意しないであろう。確かに、これだけ家庭の仕事があると、職場の仕事は手抜きとなる人も多い。職場での英国人の多くは、日本人の目には確かに怠け者に映る。

 

 

ショップで品物の所在を店員に問い合わせると、彼等は調べもせずに「そのような品物は取り扱っていません」と即答する。どこの店でも、90%以上が同じ対応である。店主に取り寄せを依頼し、品物が到着したことを知らせる電話を受けていても、同様であるので、店主と直接話をするしかない。

 

最初のうち、このような態度は差別による意地悪に違いないと思ったが、どうやらそうではない。自分の仕事を極力減らそうとしているのである。雇われている者は、店が繁盛しようがしまいが、給料は変わらない。勤勉に働いても儲かるのは雇い主だけで、自分が得をする唯一の方法は、仕事を減らすことである。収入を上げたければ転職するしかない。実際に彼らは頻繁に転職する。

 

 

スーパーのレジで待たされる時間は、少なくとも日本の3倍は長い。彼らは金曜日の夕方に1週間分の買い物を済ませるので、確かに日本人より買う量は多いが、とにかくレジで働く人の手が遅い。のんびりと待つほかはない。

これにすっかり慣れてしまった頃、ロンドンの「にんじん」という日本食材のマーケットで買い物をした。客もレジで働く人も、すべて日本人である。私は行列の長さから所要時間を見積もり、カートを置いて列をしばし離れた。その僅かの時間に私まで番が廻り、大いに叱られることとなった。当時の日本人の仕事の速さは驚異的であった・・・

 

 

 

最近では日本の社会も非正規雇用が増え、私の目には、当時の英国と似たような状況になりつつあるように見える。勤務状況が給料に反映されないような社会は停滞するので、これは要注意である。

 

英国の場合、職場の人間的な交流が社会の機能を支えている。仕事の分担は職制上、はっきり決まっているので、雑多な仕事を部下が指示されることはない。地位の高い者には負担が集中するが、多くの人々は、ゆったりとした雰囲気で仕事ができる。1日に2回あるティータイムは、このために重要である。他人にストレスを与える者は、職場から排除される。

 

大学の秘書さん達は、殆どの人々が有能で能率が良かった。ただし、彼女達に「仕事を言いつける」ような態度は禁物である。論文のタイプなど、業務の範囲であっても、そのような態度で接すると、後回しにされ、ミスも多くなる。個人的な用事をお願いするように接すると、機嫌良くやってくれて様々な配慮も加わり、能率もすこぶる良い。最初のころは手紙の文章なども、より適正な表現に直してくれたので、私の英語力の向上に非常に役に立った。

 

そして、彼女たちの退け時は見事なものである。夕方の5時に近づくと、仕事を続けながら、それとなくデスクの片づけを始める。所持品をバッグに仕舞い、はずしていた装身具を身に付け、靴を履きかえる。デスクの整理が進み、最後の書類1枚とペンのみが残ったころ、コートに袖を通す。そして5時きっかりに、バッグを手にさっと立ち上がり「Have a good evening !」と言い残して職場を去る。

 

金曜日の挨拶は、「Have a nice weekend ! 」と変わり、帰宅時間も5時より早まる場合が多い。とくに家庭を持つ女性には、 これを許容しないとマーケットが閉まり、週末の買い物ができなくなる。