浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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郵便局にて

 

 

 

日本から海外へ送金するのは気が重い。いずれの金融機関も担当者が不慣れで、時間がかかり、ミスも多い。

 

それにしても、私が最近経験したトラブルは、異次元であった。

 

 

その日、私はイタリアのある団体に送金する必要があった。私は郵便局から送金することにした。

 

局に着くと、まず応対した局員の指示通りに、渡された書類に団体の住所、銀行の口座番号などを記入した。送金者の氏名を記入する欄には、アルファベット表記で私の氏名を記入した。さらに通信欄に(短いが私にとっては重要な)コメント文を添えた。

 

その後長く待たされ、最初の応対者を含めた局員が3人ほど、奥から出てきた。ようやく完了したかと思ったが、彼等は分厚い資料を抱えており、額を寄せ合って私の記入した書類を囲み、何やら相談を始めた。嫌な予感がした。

 

かなり時間が経った頃、最初の局員がやって来て「イタリアに送金する場合、書類の転送過程で送金者の氏名欄が空欄にされる場合があるので、通信文に送金者の氏名を含めなければならない」と述べた。

そして、いきなり私の目の前で、通信欄の英文に定規を当て、最初の単語に2重線を引くと、「ここに印鑑を押して、上の余白に貴方の氏名をアルファベット表記で書くように」と命じた。

 

余りに突然で乱暴な指示に私は驚き、「私の通信文に勝手に何をするのか!?」と言うと、「文字数に制限があるので、単語を抹消した」と言う。「この単語を私の名前に変えたのでは、全く意味が通じなくなるではないか」と言うと、局員は先ほど参照していた分厚い資料を持ち出し、「イタリア」のページを私に見せ、通信欄に氏名を書かなければならない理由を繰り返した。

 

その注意書き資料は、それまで私には見せておらず、彼らも最後の段階で初めて参照したものである。そこで「名前を入れる理由はわかったが、意味が通じなくては通信欄として役に立たないではないか」と押し問答を繰り返すこととなった。

 

 

それぞれの国の特殊事情があれば、当然ながら彼らは最初に調べ、私に伝えるべきである。私は彼らをあまり困らせたくなかったので、そこは追及しなかった。ところがそれを良いことに、謝罪の意を見せるどころか、尊大な態度で通信欄に氏名を書く理由を繰り返す。

 

通信欄にどのような文章を書くかは送金者が決めることであって、局員が決めることではない。この当然の理を、頭から無視している。それとも、彼らはこの「訂正」によって文章の内容が変わらないとでも思っているのか? まさかと思いつつ、これを問いただすと、私の質問には答えず、「この単語を消せば、名前を入れても字数が制限内に収まる。他の単語は、どれを消しても名前を入れると字数がオーバーするので、最小限の修正で済ませるベストな方法である」とのこと。

 

なんと、彼らは通信欄本来の目的など念頭になく、額を寄せ合いながら、文字数だけを数えて対処法を考えていたのだ。そして「私達が最も賢明な方法を教えてやったのだ」と言わぬばかりの態度である。

 

すでに最初の単語には2重線が引かれていたので、私は書類を最初から作り直し、私の名前を含めた文章を書き直すと述べたが、「もう書類の一部を送信してしまったから、この方法しかない」とのこと。

 

このような思考回路を持つ人々に、どのような紳士的な対応が可能であるか、私は知らない。私は有無を言わさぬ命令口調に切り替え、「全文を抹消・押印し、私の名前を含めた新しい文章を書き込むので、その用意をしなさい」と伝えた。私の態度に奥の2人が椅子から立ち上がりかけたが、目で威圧して座らせた。

 

 

 

それにしても、日本はいつから、こんな国になったのか。外国では種々の組織で、簡単な計算もできない窓口職員、勤労意欲の全く無い者、東洋人に対する嫌悪をむき出しにする者、単語のスペルが怪しい者・・・等々、多くの担当不適格者を目にした。しかし、本来の目的を度外視する珍種には、お目にかかったことがない。

 

局員が誠実さをもってこれを行ったとすれば、これは怠慢や無能、悪意などとは異次元の問題である。強いて言えば無能に属するが、この種は得てして、高学歴者にも多く存在し、なかなか無能とは判定されない。

 

キョーツケ!前へ倣い」を長年続け、whatを気にせずhowだけ教えた結果がここに至るのだとすれば、恐ろしいことである。 

このような種族が増殖すれば、社会は正常な機能を失い、あるいはミスリードされ、無能より危険である。過去にそのようなことが起こった国である。私はむしろ、これは不誠実さによるものと信じたい。

 

 

 

局員は渋々、紙面に再び定規を当て、全文に2重線を引き、私に手渡した。そして、新しい文章は小さな字で上の余白に書くこと、全行に訂正印を押すこと、字数制限を守り、必ず文中に氏名を含めること、などと繰り返した。私は言われたとおりに、局員の目の前で、小さな字で欄外に文章を書き入れた。

 

局員が手渡した紙束にはカーボン紙が含まれ、修正は下の紙にも印字されるようになっていたが、カーボン紙を取ると、その下は上下逆さまに重ねられており、局員が引いた2重線と私が書いた文章は、どちらも無関係な場所に、逆さに印字されていた。

 

私はフリーズする局員を尻目に、無言で控えのページをむしり取り、ボールペンを書類の上に置き捨てて外に出た。

 

彼らがどのように処理したか知らないが、後日、送金は確認された。