浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

~記事へのコメントは歓迎です~

英国の鳥(3)

 

 

湖水のゲストハウス

 

カメ吉が生まれ、オトメと2人して私に合流してからは、私は下宿暮らしを卒業し、大学のゲストハウスに住めることになった。

 

この大学は、恵まれた環境にあった。敷地に隣接していた小さいゴルフコースを、政府が買い取ってキャンパスを拡張していた。

緑が豊富であり、大きな池があった。湖と言っては大袈裟かもしれないが、ジョギングで一周すると、かなり堪えた。

 

湖水にはアヒルと白鳥が泳ぎ、またカモメが来遊していた。カモメは海辺にいるものと、見たところ変わらない。海辺まで車で30分程度の街であったので、カモメは海岸と湖水を行き来していたのかもしれない。

 

ゲストハウスは、各国からのビジターや私のような研究員が、家族とともに住むために、キャンパス内に建てられたものである。3階建ての棟割住宅であった。

 

池から100mほどの距離にあり、ハウスの南側から湖岸まで、芝生が続いている。

緩い傾斜地に建っているため、一階の窓から首を出すと、床よりかなり高いところに芝生があり、リビングの窓を跨いでそこに出ることができた。

 

私は、休日にはカメを膝に抱き、オトメとともに窓辺に腰掛けて、芝生に寝転んで日光浴を楽しむ隣人達と会話を楽しんだ。

 

やがてカメも、芝生に出て遊ぶようになり、私たちは人々とともに、昼食を外で摂ることもあった。

 

  

 

ヒルの大行進

 

 

この長屋に住むスペインの家族が、ある日の早朝、前日のパンの残りを、鳥の餌として窓から芝生にばら撒いた。

 

これを最初に見つけたのは、湖のアヒルであったようだ。湖岸までかなりの距離であるので、どうやって見つけたのかは不明であるが・・・

 

その家の子供たちは2,3羽のアヒルがパン屑をついばむのを楽しみに、翌日も同じことをした。翌日はアヒルの数が増えた。

 

三日目の朝には、さらに集団は大きくなったが、パン屑が置かれていなかったため、アヒルは窓の外でガー、ガーと鳴き、催促した。家族はその日に食べる予定だったパンの一部を与えた・・・

 

 

ヒルの催促は、休日の早朝であったため、近隣から、うるさいと苦情が出た。

スペインの家族は、パンを与えることを控えたが・・・一度知ってしまったアヒルたちは、連日やって来て催促し、諦めない。

 

黙らせるためには、パンをやるしかない。結局、その他の家族も、1軒、2軒・・・と加わるようになり、最後には、苦情を言った人々も含めて、長屋の全員がパンをやるようになった。

 

 

その頃には、池のすべてのアヒルが、行列でやってくるようになっていた。

 

彼等は大変に行儀が良い。 グアッ、グエッ・・・ と小さな声を発しながら、一列に並んで歩いて来る。湖水から長屋まで続く、長い行列である。そして、先頭の者はパン屑をくわえると、下がって列の後ろに付き、次の者が一歩進む。

  

英語に「乞食の群れにパンを一切れ放り投げる」という表現があるが・・・どうやら、人間より行儀が良い。

 

 

 

 余談

 

この長屋には、香港からやってきた中国人の家族が住んでいた。

御主人のK氏は、もともと病院の検査技師であったが、バイオサイエンスの大学院生として社会人入学していた。奥さんが夜勤の看護婦の仕事で、家計を支えていた。

 

彼らはある日、私達も含めて数組の長屋の家族を招待し、御主人の手料理の北京ダックをふるまった。K氏は料理の達人であり、料理は本格的であった。

 

 

食事を堪能した後、人々は、ダックはどの店で手に入るのか、と口々に尋ねたが・・・

 

彼は微妙な笑みを浮かべ、何も答えなかった。

 

彼はジョークの達人でもあったが・・・ 

 

 

(続く)