浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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英国の季節感1

  

 

日本は四季の区別がはっきりしている。

 

春と秋は独立した固有の季節であり、単に冬と夏の中間ではない。

春の空は霞がかり、空気は穏やかで肌に優しい。

秋は天高く、空気は引き締まり、優しいというよりは爽やかである。

 

春と秋では、風景は全く異なる。花の特徴にも、全体として違いがある。

 

 

英国は2シーズン制である。

冬の寒さが終わる頃になると、私がまだセーターを着ているような時期から、人々は無理をしてでも半袖になる。

感覚として、「春が来た」というより、「夏が来た」と思っている。時計も「サマータイム」に切り替わり、一時間早起きしなければならない。

 

英語では、太陽が出ている時間帯を昼(day)、暗い時間帯を夜(night)、と一日を分けている。これと似た感覚で、人々は一年を夏と冬に分ける。

実際に、暖かいと感じるようになってから、体感温度サマータイムが終わるまで、あまり変化が無い。真夏でも日中の最高気温が18度を下回ることが珍しくないので、夕方はコートを着ることが多い。私達家族は、半袖の服を持たずに生活していた。

 

日本と英国の季節感の違いを話したところ、アジア圏の友人の多くは「俺たちの国は1シーズンだよ」と言って笑っていた。

 

ちなみに、「無理をしてでも半袖に・・・」と書いたが、半袖の下は素肌であるから、相当に無理をしているはずである。殆どの英国人は、真冬でも下着のシャツを着る習慣を持たない。

 

そもそも、これらは特別な店でしか売っていない。

ましてや、私の愛用する古典的なズボン下や、ステテコなど・・・

 

 

 

季節感の初体験

 

気温では季節感がはっきりしないが、日照時間の違いにはっきり季節感が出る。冬場の日照時間は短い。午後の3時を過ぎると、もう暗くなる。さらに曇天の日が多いので、一日中暗さがある。日光に当たらないので、子供たちにはビタミンDの錠剤を飲ませる。日が長くなると、痩せ我慢(ではなく寒さ我慢)をしてでもすぐに半袖になるのは、太陽の光を浴びるためでもあるようだ。

 

 

私が単身で渡英したのは、まだ寒い春先であった。下宿先が決まるまでの2週間ほど、私はキャンパス内の学生寮に宿泊した。私が泊まったのは、チューターを務める成績優秀な学生に割り当てられる、豪華ルームであった。

 

広いダイニングキッチンの他に、独立したベッドルーム、さらに個人のバス・トイレまで付いている。ベッドとデスクしか置けない、4畳半ほどの一般学生の部屋とは大違いであるが、チューターのダイニングルームは、学生の質問に応じる勉強室でもある。一般学生は、バス・トイレ・キッチンが共同であり、寮費は変わらない。

 

天気の良い日であったが、早朝に目が覚めた私は、窓を開けて外を眺めた。まだ人々は寝静まっていたが、見降ろすと、10mほど前方の別棟の屋上に、バスタオルを敷き、全裸で日光浴をしている女子学生がいた。

 

私が窓を開けた音に振り返り、「Hi !」と私に向かって笑顔で手を振った。私は目のやり場に・・・

 

困っている暇は無かった。彼女の方に顔を向けたまま、平静を装い、同じように笑顔を作り、挨拶を返した。

 

この程度でうろたえては、久米の仙人である。

これは風物詩であり、季節感なのだ・・・

 

 

窓はすぐに閉めた。開けておくには寒すぎた。

 

 

(続く)