浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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ヒトと集団3 ー オトメの場合(前編1)

  

 

集団の消滅過程については、第1回の記事に例を挙げ、また第2回の記事にも色々と理屈を並べたが・・・

 

もしかすると、オトメの超能力の一つに、集団を消滅させる力があるかもしれない、と思ったことがある。 以前の記事に書いたような、瞬殺能力ではないが・・・ 

 

目撃者として、その記録を残しておこう。

 

 

虚飾の口紅

 

私が日本の大学に赴任して間もなく、オトメは女性だけで構成された2つの会に誘われ、所属することになった。

 

どちらの団体にも、やや政治的な色彩があり、推している政党もあった。しかも左右に分かれている。

 

オトメがこの2つに同時に所属したことについては、さして驚かなかった。オトメ以外にそのような人がいたら、驚いたであろう。

 

音楽大学で学んだ天然の彼女は、政治色に全く気付かず、どちらも純粋に友好や交流を目的とした会であると思っていた。

 

 

このうちの一つは、大学教官の夫人が中心となった、互助会のようなものである。新任教官が着任すると、その奥さん方の面倒をよく見てくれる。おかげで私達の生活の立ち上がりは順調だった。オトメはピアノを教え始めたが、彼女のもとには、メンバーの紹介で良い生徒が集まった。

 

会としての日頃の活動は、子連れの遠足や地元陶芸家の作品見学会など、生活を楽しくするものが中心で、選挙の時にも特に誘いはなかった。しかし「環境問題」や「高齢化問題」などの勉強会を開催したり、講師を迎えた講演会を企画し、その内容には明らかな特徴があった。

 

オトメは単純に「とても勉強になる」と喜び、その方向性は全く気にしていなかった。

 

方向性は気にしていなかったが、オトメは、メンバーの人々が全く化粧気のないことに、やや違和感を感じていた。服装も、普段着としても飾り気が乏しすぎる。もう一方の会では逆の傾向であったが・・・

 

ある時、メンバーの一人が、「口紅を試しに使ってみたら、御主人に『それは虚飾だ!』と叱られ、拭き取られた」という話をした。オトメは思わず吹き出してしまい、座が白けて沈黙が続いた。

 

   「・・・それで、よく見たら、誰も口紅をしていないのよ・・・

    この会は、なんだか変だわ・・・ 

 

    陶芸の先生のお宅に伺ったときも、訪問着は私1人だけで、

    ほかの人は、まるで作業着だったのよ・・・

    それで、ほとんど挨拶もしないで、ずかずか入って行って・・・

    先生、驚いた様子で・・・ハラハラしたわ」

 

この時はじめて、私はオトメに、日本の大学は通常の社会に比べて左翼的であり、価値観・道徳観がかなり異なることを教えた。

 

   「どうりで・・・もう一つの会とは、随分違ってたのよね・・・

    勉強会の読み物なんかも・・・私は、どうしたらいいの・・・?」

 

   「別に・・・今まで通りでいいんじゃない? 

    みんな、普通の生活をしている人達だし・・・」

 

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私自身は日頃から集団に属することを避けていたが、私には職場で(好むと好まざるとにかかわらず)日々の交流がある。オトメは新しい土地で孤独であってはいけない。そしてどちらの会も、同調圧力をかける行為は控えており、その点は良識的であったので、とくに心配はしなかった。

 

オトメが発言すると、やや驚かれることもあるが、友好的な雰囲気が壊れるまでには至らないそうである(あくまでも本人の主観であるが)。オトメはどちらの会とも友好的な関係を保った。

 

 

(続く)