浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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英国の食事7-ティータイム

 

 

つまみ食い野郎どもに告ぐ! 

オレは面白くない!!

オレは公的消費のためスナックを買っているのではない!

 

ある日、ティールームに置かれた冷蔵庫を開けると、ボックスに書かれたこの文字が目に飛び込んできた。ティータイムに秘書さん達から、ミルクを持って来て欲しいと頼まれた時のことである。

 

感情を出さず、軽妙な皮肉でチクリと刺すことをクールとする英国人としては、珍しくストレートな熱い表現であった。寸分も無駄の無い簡潔な表現は英国流と言えるが・・・

 

物理教室のティールームでは、巨大な冷蔵庫に茶葉やコーヒー豆等のストック、またミルクティーに欠かせない(配達されたばかりの)牛乳瓶などが保管されている。スペースは十分にあるので、夏場はここに自分のランチボックスを置いている人もいる。秘書さんが、自分の焼いて来たスコーンやビスケットをここに提供することもある。

 

要するに公的な消費物資と私物が混在していたことが原因の一つのようだが・・・個人の名前をボックスに書いても、まだ多くの人々がつまみ食いを続けたので、アタマに来たのであろう。

 

 

1日2回のティータイム

 

英国人は一日に2回、必ずティータイムをとる。ティールームは重要な社交場であり、教官や研究員、ゲストが様々な交流をする。そしてここには、大学院生や秘書さん、実験補助の技官の人々も集う。

 

ティータイムの時間は決まっており、午前は10時15分からだったと記憶するが、実質的には10時30分頃からだった。日本の大学人は出勤時間が遅いが、英国も似ており、特に理論屋は夜型である。設定時間より、次第に遅くなる。

 

出勤時間があまり遅くなると、オフィスではなく、ティールームに直行することになる。15分ほどで切り上げるのが習わしであるが、雑談が長引いたり誰かと議論が始まると、昼食時まで連続する。さらに昼食後に、ゲストと共に案内を兼ねた「腹ごなし」のキャンパス散歩などをすると、間もなく午後のティータイムになり、そのままティールームに入ることがある。

 

きっちりと15分で切り上げても、昼食も入れると、一時間半から2時間ごとにブレークがある。脳ミソの起動に時間のかかる私は、これでは仕事にならない。結局、ティータイムはスキップすることが多くなった。もしかしたら、人によっては、全くオフィスに行かずに帰宅する日もあるのではないか?

 

 

街中のティータイム

 

以前の記事で、英国にはまともなケーキの食べられる喫茶店は無い、と書いたが、街に出て用を足していると、歩き疲れてお茶をしたくなる。

 

そのような時、スコーンやビスケットと紅茶だけでよければ、街中のホテルにふらりと入る。フロントで注文すると、150円程度でロビーのソファーに座り、ティータイムを過ごせる。夏場はガーデンのテーブルを勧められる。

 

ホテル以外の場所はお勧めできない。

 

茶店(と言えなくはない場所)は少数ながら存在する。が、お茶を注文すると、最も安いティーバッグがカップに入って運ばれてくる(あるいは自分で運んでくる)。これにテーブルに置かれたポットから、自分でお湯を注ぐ。

 

コーヒーの質は言うに及ばず・・・ 

 

メニューを見て、うっかり「ケーキ」などを注文すると、オトメがキッチンのゴミ箱に捨てたような代物が運ばれてくる。

  

 

紅茶の質

 

当時、私とオトメはやや甘党で、紅茶には砂糖を少量入れ、レモンティーを好んだ(最近は砂糖を入れない)。

 

これに合う紅茶の種類は、実は意外に少ない。結局、私達が選んだのは、スーパマーケットに山積みされている「typhoon」という商品名の、最も安い茶葉だった。これにボトルで購入した軟水を用いる。水道水は(飲めなくはないが)非常に硬い水で、緑茶に向かない。そして紅茶にも向かない。

 

ある日、これをY教授夫人に振る舞ったところ、彼女は非常に喜び、

 

  「こんな美味しいお茶は飲んだことが無いわ、日本から持ってきたの?」

 

と聞かれた。が、typhoonの箱を見せると

 

  「それ、労働者の飲むお茶よ」

 

と顔をしかめた。さらに、レモンを入れたことを伝えると表情が硬くなり、

 

  「それ、アメリカ人が良くやるわよね」

 

と言って飲むのを止めた。

 

 

Y教授のお宅で頂くお茶はアール・グレイで、強い香りがした。高級品であることは間違い無いが、私達はこれがやや苦手であった。鼻がツーンとする、というか頭にキーンと響くような感覚で、英国のコーヒーとどちらが「まし」か、難しいところである。

 

驚いたことに、香りが穏やかで私達のレモンティーに丁度良い、と思っていたトワニング紅茶(とくにクイーン・メアリー、イングリッシュ・ブレックファーストなど)は、一様に同様の強い香りがした。

缶のデザインも大きさも、すべて日本に輸入されているものと同一であったにもかかわらず、である。

日本の商社が、日本人の好みに合わせて茶葉のブレンドを変えていたのか、あるいは「安物」を掴まされていたのか・・・

 

最近、日本で市販されている紅茶は、英国で市販されていたものに近づいている。日本人の好みが変化し、商社がそれに追随しているのか・・・あるいは英国側が騙すのを控えるようになったのか・・・

いずれにしろ、私達が楽しめる葉に出会うことは、殆ど無い。

ただ最近、輸入品を扱うマーケットで typhoon を見かけたので、そのうち試してみようと思っている。

 

 

余談:英国以外のスコーン

 

英国のスコーンとビスケットは美味しい。ホテルでお茶を注文すると、どちらかが付いて来る。特にスコーンは絶品である。甘さ控えめで、ほっくりとした食感との絶妙なバランスがある。スコーンを自分で焼く主婦は多いが、このバランスはすべての人に共通していた。

 

日本の大学に勤めるようになって、この話を研究室の学生にしたところ、ある日の午後、 Y嬢 が

 

     「先生が言っておられたのと同じものを見つけました!」

 

と言って、買ってきた「スコーン」をテーブルの上に置いた。確かに形状は私が話したものに似ている。サイズはやや大きめであった。早速、お茶を入れて試食したところ・・・

 

ひどく不味かった。

 

私とY嬢はその後、オーストラリアでの国際会議に参加し、その際に、当地のスコーンを試した。これは私に、小学生時代の悲しい記憶である「給食のパン」を思い出させた。

 

たまには英国の食品も褒めておこう。どうやら小麦粉の質が決め手のようである。

 

 

 (続く)