浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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英国の食事8-ビールとワイン

 

シリーズの途中で随分時間を空けてしまったが・・・

 

「英国の食事7」に続き、英国の食品について、もう少し褒め足しておこう。と言っても、今回はアルコール飲料である。

 

酒類は食事そのものではないが、私にとって食事の一部である。

 

 

ビールの種類

 

英国人に言わせると、英国はビール発祥の地なのだそうだ。

 

最近見たテレビ番組によると、古代エジプトで、すでに初期のビールが作られていたらしいので、正確には英国説は正しくないと思われるが・・・その後、ビールは長く忘れられていたそうだ。ヨーロッパで再び英国が作り始めた、ということかもしれない。

 

種類は豊富で品質も良い。当時のY教授の話では、英国で作られているビールの種類(銘柄?)は200を超えていたそうだ。今は地ビールなどが盛んになり、日本でもそれ以上の数になるのではないかと思うが・・・

 

私が良く目にし、かつ飲んでいた種類は、ラーガー、ビター、エール、スタウトの4種類だった。これらの名称は日本でもお馴染みと思われる。これ以上の種類があるかどうかは知らない。

 

上に書いた順に、段々と色が濃くなって行く。ラーガーとビターを入れ替えると、値段の順になる。

日本人が普通に飲む黄色いビールは、おしなべてラーガーと呼ばれる。名前は一緒でも日本のビールと比較すると、味にかなり多様性があり、ヨーロッパ大陸からも色々な種類が入ってくる。ドイツやオランダのものが日本のビールに近いかもしれない。

 

ラーガーと呼ばれていなかったが、大学内のパブでは、「スイスビール」と称する黄色いビールが飲めた。見かけはラーガーに良く似ているが、色がひときわ鮮やかである。これは独特な甘さとともに、飲んだ時に「キーン」と神経を逆撫でするような後味があり、私は好きになれなかった。

 

甘い食事と同様、私には体に馴染まない味覚だった。甘さの原因かどうか分からないが、独特の後味は、鮮やかな黄色を出すために、サフランでも入れているのか・・・と感じた。

 

古代エジプトのビールには、コリアンダ(最近日本ではパクチーと呼ばれている)が含まれていたそうなので、スイスビールにも似たようなものが入っていたのかもしれない。

 

ちなみに、私はコリアンダが苦手である。 「コリャナンダ?」

 

 

ビターは、麦茶のような色合いで、これが英国の伝統ビールのようだ。パブが店を開ける昼ごろに、地元の業者が毎日配達する生ビールである。業者により味が変わる。

炭酸を入れないため、口当たりに「ぬめり」があり、一日置いて気の抜けたビールといった感じだ。最初は気持ちが悪かったが、慣れると好きになれた。ビターと言うからには、相当に苦いのであろう、と最初は身構えて口にしたが、私の印象では「最も苦くないビール」である。素朴で穏やかな味わいであった。

値段が安いため、私を含め多くの人が、もっぱらビターを飲む。これにすっかり慣れた頃、一時帰国して日本のビールを飲んだところ、炭酸で腹が膨れ、かなり苦しい思いをした。

 

エールは、それぞれのパブやブルワリーにより、色の濃さに幅がある。缶ビールとして輸入されるものも多い。スカンジナビア産は香りにやや癖があり、日本の地ビールに近いものがあった。ドイツではアルトと呼んでいるものが(色としては)これに近い。エールとアルトは語源が共通かもしれない。が、アルトは素朴な味わいで、こちらの方が私の好みである。

 

スタウトは漆黒のギネス。これは日本でもアイルランドから輸入しているが、「ギネス」は会社の名称で種類の名称ではない。到着したばかりの生ビールで飲むパブのスタウトは、値段は高いが非常に美味しかった。

 

 

自宅でビールを作る国

 

ビールの色や味の違いは、ブレンドする麦の種類の比率で決まる。英国では自宅でビールやワインを作ることが許されており、スーパーマーケットで様々なブレンドが、茶葉と並んで売られていた。これらはイーストとともに、ビール樽の形をしたミニチュアサイズの缶に詰めて売られている。

 

多くの家庭で、ビールは地下室で造られる。適当な容器に缶の内容物と水、砂糖を加えて放置すると出来上がる。 

G博士にディナーに招待された際に、地下室で造り方の一部始終を説明して貰った。彼は2つの醸造容器を交互に稼働させ、出来上がりを待つことなく、いつでもビールを絶やさないようにしていた。化学実験室で使っている蒸留水のタンクのような容器が多いようだが、実際に実験室のタンクと同一かもしれない。コックがついており、ビールが仕上がると、ビーカーに蒸留水を注ぐ要領でグラスに注ぐ。

 

物理学のスタイルに限らず、彼の好みは私と近かった。その時はドイツのアルトのような、ややダークなエールが、出来立てだった。私が大量に飲んだため、半分近くに減っていたが・・・もう一つのタンクではラーガーが発酵中だった。

 

自分で造れば、費用は市価の1/3程度である。かなり飲んでも家計を圧迫する心配は無いので、これは大変に羨ましい(私の場合は今でもかなり圧迫している)。

 

これほど簡単に安く造れるなら、パブに足を運ぶ客がいなくなってしまうのではないか・・・? と疑問をぶつけると、彼は「温度管理など、品質の良い物を造るのはやはり難しい。旨いビールを飲みたいときは、自分もパブに行く」との答えであった。タンクの最後の方になると味が落ち、澱も溜まってくるので、我慢して飲むことになるそうだ。

 

彼の造るビールの品質は、私にはパブ以上と思えたが、恐らく私を招待するために、醸造のタイミングを合わせたのだろう。

 

 

Brexit Wine

 

蒸留酒は禁じられていたと思うが、ビールだけではなく、色々な酒が自宅で作れる国である。

 

Y教授も自宅でワインを作っていた。 

ルビー色の柔らかいワインで、上質のボジョレ・ヌーボーといった味わいである。これを御馳走になり、手作りとは知らずに「美味しい」と褒めたところ、自慢げに製造工場の物置部屋に案内された。3ヶ月ほどで醸成してしまう若いワインである。

 

英国でブドウ畑を見たことが無かったので、「英国でブドウが採れるとは知らなかった」と言うと、「いや、ブドウはヨーロッパ産だ。いつも、八百屋で安くまとめ買いしている」と答えた。英国では、箱でまとめ買いをするときは、店主と交渉し、かなり安く買うことができる。

 

ちなみに、彼等がヨーロッパと言う時は、大陸を意味する。もともと英国人は、自分たちをヨーロッパの一員と見做していない。英国のEU離脱は、ひとつの自然な流れかもしれない。

 

当時はまだEUの発足以前で、農産物の輸入品には関税がかかっていた。が、国産品に比べてそれほど高くはなかった。英国が離脱しても、自家製ワインを造るコストは、それほど変わらないだろう。

 

Y教授によると、「英国の気候はブドウ栽培には適さないが、ワイン醸造には最適だ」ということである。英国人がその気になれば、英国産のヌーボーが、ヨーロッパ市場を席巻する日も来るかもしれない。Brexit nouveau ではどうか?

 

 

 (続く)