浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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随想

ガラパゴス列島の受験社会Ⅸ

このシリーズの第6回の記事で、冷戦時代のスプートニク・ショックが西側諸国の教育近代化を促したと書いた。しかしいまや、軍事的な脅威は、当時の比ではなくなった。 ヨーロッパの戦火に比べれば、受験社会の話など、のどかな風景である。どのような形であ…

ガラパゴス列島の受験社会Ⅷ

小学校において「集合論での落ちこぼれ」が社会問題化していたころ・・・高校教育では、集合論どころではなく、分数の通分が理解できていない生徒が、社会問題になっていた。 高校の希望者全入に先駆けていた京都などの公立高校では、これが以前から問題にな…

ガラパゴス列島の受験社会 Ⅶ

前回の記事で述べた水道方式がどの程度、政府レベルの政策として、米国と密接に連携していたのかは知らない。 しかしこの教育改革は、日本独自の取り組みとは到底考えられないほど、思い切った変革であった。直接にしろ間接にしろ、相当の外圧が無ければ、こ…

ガラパゴス列島の受験社会Ⅵ

前回から続く このシリーズの第3回、第4回の記事で、都立高校の学校群制度や大学の共通一次試験の導入について書いてきたが、これらはやがて日本人の学習を変えてしまうほど、影響の大きいものだった。 どのような影響があったかについては、いずれ詳しく書…

ガラパゴス列島の受験社会 Ⅴ

前回の記事では、東京都の学校群制度、大学の共通一次試験、中学受験の過熱・・・という一連の流れを回想し、経済格差が教育格差を生む社会になりつつあると書いた。 この観察は現在、多くの人々が共有しているように思う。 しかし、なぜこれが始まったのか…

ガラパゴス列島の受験社会Ⅳ

前回の記事 では、大学共通一次試験の導入と国立大学の授業料値上げについて書いたが・・・ 東京都の学校群制度 これに先立つこと数年、受験生を送り出す高校側でも、入試が大きく様変わりした。東京都で学校群制度が導入され、都立高校を受験する生徒は、地…

ガラパゴス列島の受験社会Ⅲ

前回の記事では、現在多くの国々で、若い人々を評価する共通基準として学業成績が使われていると書いた。 日本の社会では、しばしば「学歴信仰」などという表現まで使われているが、これは「人間の社会は神話によって形成されている」というユヴァル・ハラリ…

ガラパゴス列島の受験社会 Ⅱ

前回の記事ではダイヤモンドを例として、人間社会で一度定着した価値観は根強く継承されると書いた。そして日本の社会においては、江戸時代から学歴の価値が継承され続けていると書いたが、これらは、いずれも本質的に同じ現象なのだろうか? 人造ダイヤと天…

ガラパゴス列島の受験社会 Ⅰ

ユヴァル・ハラリの歴史観 ユヴァル・ハラリの「サピエンス全史」は世界的なベストセラーである。私もテレビ番組での断片的な紹介によって、内容を一部だけ知っていた。そして、サロンメンバーの一人がその漫画ヴァージョン(上下2巻)を持って来てくれたの…

ビールこぼれ話3

英国滞在記のカテゴリーで「ビールこぼれ話」のシリーズを書いた。このとき、ビールの話は終わりにすると書いたが、英国滞在記とは別にもう一つ。 オーストラリアのビールとY嬢 以前、オーストラリアのスコーンを貶してしまったので、ここでは彼等のビールを…

オトメの母の死

わたしの義母、つまりオトメの母が亡くなってから、10数年になる。 注射でb型肝炎を貰い受けた事に長いこと気付かず、それが元で腸に癌を発生した。それでも、ほぼ直前まで、元気に立ち働いていた。辛抱強い性格のため、周囲があまり気が付かなかったのか…

マニュアル人間の精神構造3ー原発人の勇気あるマニュアル違反

(2)に続く 沈みそうになった豪華客船で、添乗員が乗客に、海に飛び込むように指示する。その時、どのような言い方をするか? ドイツ人に対しては「飛び込むことが規則である」と言い、フランス人に対しては「絶対に飛び込んではいけない」と言い渡す。 そ…

マニュアル人間の精神構造2ー推薦入試の人

(1)に続く 大学の入学試験は、年に何度も行われる。私の奉職していた大学では、学部入試だけでも前期日程・後期日程・2回の推薦入試の、計4回であった。これに加えて大学院入試が年に3回ある。 推薦入試のはじまり 学部の推薦入試が導入された当初、文部…

マニュアル人間の精神構造1-ショップの人

無用なスマホオプション チャンネルを廻していたところ、スマホの生みの親と言われている有名人のニュースをバラエティ番組で扱っていた。内容が目に入り、思わずチャンネルを送る手を止めた。 彼は御自身の御母堂がスマホの契約をした際に、多数の不要なオ…

ヒトと集団3 ー オトメの場合(後編2)

前回の記事に書いたように、オトメが属した会の人々のうち、何人かは、活動の方向性を広げ、会以外の人々と接点を持つ機会も、次第に増えて行った。 そして・・・ ある日オトメは、古くからの年長メンバー2人の会話を、偶然耳にした。 「最近はつまらないわ…

ヒトと集団3 ー オトメの場合(後編1)

前編2から続く 前回は私達が住宅を手に入れた経緯の説明が長くなり、やや脱線してしまったが・・・ 話を元に戻そう。 転機 大学教官夫人の会において、オトメの影響は、最初の段階から少しずつ始まっていたと思われるが、後から考えると、私達の住宅の購入…

ヒトと集団3 ー オトメの場合(前編2)

前回から続く ・・・オトメはどちらの会とも友好的に交流を続けた。 住宅と優先順位 大学に赴任した当初、私達がオトメのピアノの置き場所に困り果てていたことは、別の記事に書いた。当初は借家を探していたが、ピアノを置ける貸家は全く見つからない。唯一…

ヒトと集団3 ー オトメの場合(前編1)

集団の消滅過程については、第1回の記事に例を挙げ、また第2回の記事にも色々と理屈を並べたが・・・ もしかすると、オトメの超能力の一つに、集団を消滅させる力があるかもしれない、と思ったことがある。 以前の記事に書いたような、瞬殺能力ではないが…

ヒトと集団2 ー 集団の発生理由

「人と集団1」から続く 大学紛争の時代に、活動家学生の集団が、世界的な規模で発生した理由は何であろうか? そもそも、集団が発生するメカニズムは、どのようなものであろうか? 幼稚園でもサルの社会でも、集団は自然発生するので、これは文化人類学のテ…

ヒトと集団1 ー 大学紛争の終焉

ノンポリ宣言 大学紛争の時代、政治的な議論に関心を持たない学生は、ノンポリと呼ばれていた。 私はノンポリである。 政治的イデオロギーより、個人の倫理観の方がずっと重要であると思っている。 したがって、政党政治を好きになれない。 それ以前に、徒党…

統計の虚実3

人は正確な統計データに基づいて、自分のとるべき行動を決める訳ではない。ビジネス等では利用できるデータが存在する場合もあるが、日常の行動では、そのような場合は少ない。 人々の判断の基準は、それぞれ経験の蓄積としての、個人の統計データである。多…

英国人の色彩感覚2

「 英国人の色彩感覚1」から続く いらかの波 白い漆喰の壁と、黒い瓦屋根が立ち並ぶ。 黒、白、黒、白、 ・・・ 果てしなく並ぶ。住宅地には色が無い。 帰国して最初に赴任地に到着した時は、夜であった。用意されていた官舎の集合住宅に泊まり、一夜明けて…

統計の虚実2

「統計の虚実1」から続く 「統計」の話とは言えないが、やや関連する確率の話をしよう。 恐縮ながら、再び長男の話題である。 前回の記事から遡ること、およそ10年前であるが・・・ 長男至上主義と人口比 ある小説家が 週刊誌に、軽い娯楽記事を連載して…

統計の虚実1

第1子 vs 第3子 満面の笑みを浮かべ、オトメが勝ち誇ったように、私の目の前に新聞記事を広げた。 渡英する前の、まだ新婚といえる時代の話である。 記事は、当時よく話題になっていた「長男(長女)と次男(次女)の、どちらが優秀か」という問題について…

英国人の色彩感覚1

環境は人の色彩感覚を支配する。 天候や自然の風景は、当然ながら影響する。そして私の印象では、それ以外にも、生活スケールの違いが、色彩感覚に大きく影響する。建物の大きさや道路の広さ、部屋の広さ、それによる人間同士の距離の違いなどである。見る距…

無意味なことをする理由・させる理由(7)

前回から続く ある年、私は2人の学生の卒業研究を指導した。一人は成績が第一位のK君であった。K君は初年時の私の授業を満点で通過しており、大変真面目な学生であった。もう一人の学生は、別の記事に登場したS君である。 対照的な2人のレポート 3年生にな…

無意味なことをする理由・させる理由(6)

前回から続く 「無意味なこと」というタイトルでシリーズを書いてきたが、この言葉を目に(または耳に)したとき、「学校の勉強」を思い浮かべる人が、かなり多いのではないだろうか? 私は小学生時代、真面目に勉強した記憶が無い。むしろ、なるべくやらず…

無意味なことをする理由・させる理由(5)

前回から続く 既得権益を保護するための仕事 かつては意味があったが、現代ではほぼ無意味になっている・・・それが分かっていても、制度上なお存在し続けている・・・という仕事は、かなりあるように思う。 これは個人の価値観や習慣でやってしまうことでは…

無意味なことをする理由・させる理由(4)

前回から続く 仕切り直しをして、 無意味な仕事の分類学の続きを試みよう。 無意味と決めつけることは言い過ぎとしても、しない方が良い、あるいは、しなくても良い、という仕事は、日本の社会では山ほどある。 見栄のための仕事 第2回の記事で、私の「綺麗…

無意味なことをする理由・させる理由(3)

シリーズの(2)から続く 「しなければならない仕事」だけで済ませ、他をすべて「してはならない仕事」とする英国流の社会人生活が板に付いた頃、私は帰国して、地方の国立大学に勤めることとなった。 それまでやっていたことを、やらずに済ませる。 これは…