ビールこぼれ話1
先日の記事で、英国のホームメイドのビールやワインの話をしたが、これを書きながら、色々と思い出したことがあった。
テニスの後
大学院時代の話であるが、ある日曜日に私のテニス仲間が、テニスを始めたい人がいると言って、新顔をコートに連れてきた。物理ではなく工学系の学科の助手で、比較的に年齢の高い、独身男性である。(当時はスリムであった)私達学生と比べて、かなり腹が出始めていた。
テニスが終わればビールというのが相場である。
汗を流した後のビールは格別だが、そこは貧乏学生の集まりである。夕方になってプレーが終わると、買い出しをして研究室でカレーなどを作り、学食より安上がりの夕食会を兼ねる。
しかし、その日はカレーを作らず、シャワーを浴びるとビールと食品を購入し、新顔氏の研究室に集まることになった。
私達の学科では、個室を与えられるのは助教授からで、助手は大学院生と部屋をシェアし、彼等を監督する。
が、彼の研究室は非常に広い個室だった。学科により方針も異なるのだろうか。その広さに驚いた。
色々な実験器具も置いてあり、実験室を兼ねていたのかもしれないが・・・
それにしても研究室としては、やや特異であった。
どちらかと言うと、学問的な雰囲気より、生活感が強く漂っている。
中央にはソファーが置かれ、その上には、仮眠をとるためであろうか、枕と毛布がころがっている。そしてソファーの後ろには、大型の冷蔵庫が置かれ、その周辺にカップラーメンの容器をはじめ、様々な生活ごみが集められていた。
仮眠だけではなく、泊まり込みをしているようだ。要するに、学生の下宿を大型化したと思えば良い。
部屋に入ると、彼はまず冷蔵庫を開けた。中は意外にもがらんどうであった。プラスチック製の大きな容器が、ぽつんと置いてある。
そして容器の蓋をとると・・・背中越しに、何やら白いものが容器内に見えたが・・・
表面の透明な液体をスプーンで掬い、口に含み、
「残念だな、まだ少し早い」
と言って蓋を閉めた。
なんと、日本酒を造っていた!
大学の研究室で酒を造り、学生に振る舞っていたことが公になれば、クビは避けられないだろう。何とも危険なことをするものだ。
良く考えると、私達も学籍を失う危険にさらされていた訳である。まだ熟成していなかったため、ビールだけで乾杯することになり、共犯は免れたが・・・
もしかしたら、彼が個室を与えられていたのは、このような素行が理由だったのかもしれない。
研究室の状態も、ゴミ屋敷とまでは行かないものの・・・
学生を同室させ、監督させる訳には・・・
米ワイン
別の記事に何度か登場した(飲むことが好きな)A.M.教授から聞いた話であるが、こちらも彼の大学院生時代の話である。が、標題の 「米ワイン」は、「米国産ワイン」ではなく、ライスワインである。
彼は米国のミズーリ州の出身で、その後も同じ州の大学で教鞭をとり、生涯をそこで過ごした。
ミズーリは禁酒法が最後まで残っていた州で、彼の大学院時代、すでに他の州では酒造りが盛んになっていたが、ミズーリの人々だけ、まだマーケットで購入することができなかった。
学生だったM教授は、この頃から飲むことが好きだったのであろう。大学内のユダヤ人コミュニティーから、米を使ってワインを造る方法を書き記したアングラの小冊子を入手した。そして、自宅ガレージでそれを実行し、ワインを楽しんでいた、と言った。
てっきりドブロクのような日本酒を造ったのだと思い、
「日本酒の味は気に入りましたか?」
と尋ねたところ、
「いや、SAKEとは言っていない。ワインだよ」
「・・・味はどんな・・・?」
「だから・・・ワインさ・・・」
「でも、米から作ったんでしょ? まさか赤ワインには・・・」
「うん? あ、そりゃまあ・・・普通の白ワインだな」
「どのようにしたら、米からそのような味に?」
「作り方は簡単さ。米を水に浸して、レーズンをぱらぱらと
バラ撒く。温度や時間など、多少の注意事項はあるけどね。
日本酒は飲んだことないけど、白ワインとはだいぶ違うのか?」
「全然違いますね・・・匂いからして・・・」
水に浸す前にコメを蒸したのかどうか、私は覚えていないが、酵母の種類で全く違う種類の酒になるようだ。
人間は、放っておくと、自然に酒を造る動物のようである。
サル酒ならぬヒト酒・・・霊長類の特徴か。
余談
米から白ワインが作れることを、最近の「村おこし」の話で確認した。
ある地方の村が、自分たちの地酒をブランド品としてフランスに売り込もうと計画した。サンプルを相手に送ったところ、色々と味に注文を付けられる。それに合わせて改良して行くが、相手は注文を加え続ける。どうも、白ワインに近い味が好まれるようだ。
それならいっそ・・・と、酵母をぶどう酵母に完全に切り替えたところ、すっかり白ワインのようになった。相手は満足して、輸出ができるようになったそうである。