浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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英国の食事6-夕食と金曜日の買い物

 以前の記事で、G博士の弁当について紹介した。比較的に豪華ではあるが毎日、完全に同じ内容であると・・・

 

 

曜日で決まっている英国人の夕食

 

G博士に限らず、英国人の朝食と昼食は、ほぼ毎日、同じである。そして夕食も、曜日ごとに決まっている家庭が多い。この場合、食事のバリエーションは

 

         7+1+1+1 = 10 種類

 

となることが予想される。左辺第1項の7は日替わりの夕食、第2項の1は月曜~土曜の朝食、第3項の1は同じく月曜~土曜の昼食、そして第4項の1は、日曜日のブランチである。

 

ブランチと言えば遅い朝食(兼昼食)を意味するが、遅めの昼食(兼夕食)だったかもしれない。記憶は定かでないが、家庭によって変わっていた可能性もある。どちらにしろ上の計算に変わりは無いが・・・

 

私の知り得た範囲では、日曜日のこの食事の内容は、すべての家庭で同一であった。正午から少しずれた時間(昼下がりなど)に、何人かの人々に招待されたが、必ずローストビーフ(+グレービーソース)、マッシュトポテト、ヨークシャープディングが皿に盛られていた。

 

グレービーソースやマッシュトポテトは、誰に招待されても同じ味であった。市販のもので済ませていたのであろう。缶詰のグレービーソースは非常に穏やかで美味しく、オトメも購入し、好んで料理に使っていた。

ヨークシャープディングはデザートではなく、シュークリームの皮に似た主食の一種である。こちらは「自家製です」といってサーブされる場合が多かった。これにもグレービーソースをかける。

わざわざ自家製と断るからには、御自慢なのであろうが・・・家庭による味の違いは感じられなかった。

 

 

金曜日の買い物

 

英国人は金曜日に一週間のまとめ買いをする。英国に限らず、専業主婦が少ない国の特徴であろう。今では日本もこれに含まれるはずだが、日本の場合は職住接近ではないためか、土曜日の方が買い物客は多い。英国では多くの職場で、金曜日は早めに仕事を切り上げることが習慣化されているようだ。

 

オトメとカメ吉が私に合流して間もなく、Y教授夫人はお勧めのスーパーマーケットを私達に紹介し、買い物に付き合ってくれた。金曜日の夕方に待ち合わせをして、マーケットに繰り出す。

 

Y夫人はもちろん、自分の買い物も兼ねている。 

その速さに驚いた!

カートを押しながら、手の休む暇もなく、両サイドの棚から缶詰や袋入りの食品を、次々とカートに放り込んで行く。肉類や野菜類などの生鮮食料品も同様である。購入するアイテムも数量も、毎週すべて決まっているようで、商品を吟味することなど全くない。どの棚に何があるのか、すべて頭に入っており、道順も決まっている。あっという間にマーケットを一周し、彼女の買い物は終わった。

 

一週間のメニューがすでに決まっているので、「今日は何にしようかしら」などと考え悩む必要が全く無いのだ。

 

考えて見れば、調理に要する時間は無論のこと、買い物をはじめ、人が食に費やす時間とエネルギーは相当なものである。

食に関心が薄ければ、その分だけ有意義に人生を送れるのは確かだ。

 

・・・が、生きるために食うのではなく、食うために生きるのもまた・・・

 

しげしげと商品を見比べ、その多くは買わずに棚に戻す。ようやく最後に、一品をカートに入れる。

私達の悠長な買い物ぶりを、Y夫人は半ばあきれた眼差しで眺め、それでも彼女は辛抱強く付き合ってくれた。

 

 

金曜日の魚

 

一週間のサイクルの中で、多くの家庭で魚料理は(あるとすれば)金曜日の夕食と決まっているようだ。

 

学生時代に英会話の授業を履修したことがあり(テープレコーダーを聞くだけの無意味な授業だったが)、教材でこのことが紹介されていた。

 

アメリカ英語の教材だったので、米国の話と思っていたが、英国に渡り、この習慣が共通しているらしいことがわかった。宗教上の理由もあるのかもしれないが、魚を調理するのは一般に時間が掛かるので、女性も職を持つ社会では、金曜日でないと難しいのかもしれない。流通ルートも、金曜日に間に合わせるように機能している。

 

英国人が家庭で魚をどのように調理するのか、残念ながら知る機会は無かった。そもそも、日本と同様に海に囲まれながら、英国の人々はあまり魚を食べないように思える。日本のように、鮮魚がスーパーマーケットで売られているのを見た記憶がない。すべて冷凍である。ヨーロッパ大陸の多くの都市で、冷蔵ガラスケースを備えた清潔感溢れる鮮魚ショップを見かけたが、英国では記憶がない。私達の住んだ街では、鮮魚は金曜日の昼下がりに限り、小さな屋台で売られていた。

 

彼等は魚の骨を嫌う。食する魚は、ほとんどがタラのような白身魚である。スキッパーなどは、スモークした缶詰として売られていた。

白身魚として、タラの他にヒラメやカレイがあるが、これらはどちらもプレイスフィッシュと呼ばれ、区別されないらしい。高級メニューとして、有名なドーバー・ソウルのムニエルがあるが、プレイスフィッシュは多くが安手の外食産業に流れ、「フィッシュ&チップス」と呼ばれる、世にも恐ろしい庶民フードとなる。これについては、別の機会に書くことにしよう。

 

ヘリング(ニシン)なども屋台で売られていたが、これらの小骨を持つ魚は、低所得者層の食料のように思われた。ニシンはオホーツク産と大きく異なり、大型イワシ程度の大きさで、ヒゲのような細い小骨を大量に有している。小骨を取り除くのは余りに煩わしく、焼いて骨ごと食するのが現実的である。私達はこれに大根おろしと醤油を加え、焼魚定食を楽しんだ。

対岸のオランダではヘリングを瓶詰の酢漬にする。こうすると、小骨はほとんど溶けた状態になる。英国人もこれをサンドイッチに挟むことがあり、屋台では自家製の瓶詰を売っていた。 

サバも屋台で売られていたので、焼サバ定食やサバ味噌定食を試みたが、日本のサバより痩せて小さく、味はかなり劣っていた。

 

 

余談 

 

鮮魚の屋台は金曜日に、路上の特定の場所に2軒だけ現れた。量も種類も少なく、売切れれば終わりである。数時間で閉店となる日も多かった。魚を買う日、私は仕事を早めに切り上げ、車で両方の屋台の前を通り、売られている魚の種類を見定める。その上で、オトメと手分けして、売切れないうちに購入した。 

 

英国人はイカ・タコを食べない。が、あるとき屋台の一軒が、イカを店頭に置いた。網に掛かって引き上げられ、捨てられるはずの物を、試みに置いたのであろう。私達はこれを買って帰り、イカ天に仕上げた。

 

翌週の金曜日に、この店はイカを増やした。私達はこの日も、これを購入した。

 

間もなく、ある中国人が(飲食店の経営者であろう)これを見つけ、殆どを買い占めた。それ以来、この店のイカは、さらに集まって来た他の中国人も交え、争奪戦となり、値段が大きく跳ね上がった。

 

この屋台で、私は捨てられようとしていたタラの卵に気付き、これを貰い受け、塩を振って自家製のタラコを作成した。中国人は興味を持たなかったと信ずるが、これも後に有料とされてしまった。

 

(続く)