浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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イスラムの妻たち

 

 

イスラム圏の多くの国々では、まだ教育の体制が整っていない。そのため、これらの多くの国々では、英国の大学に留学することがステータスとなっている。私は英国滞在中に多くのイスラム圏の知人を得た。

 日本人の夫英国人の妻について書いたので、滞在中に見聞した範囲ではあるが、次にイスラム圏の人々について書こう。

 

 

一夫多妻論

 

イスラムの一夫多妻は良く知られているが、実際には複数の妻を持つ男性は多くない。4人の妻を持つ男の話を以前に書いたことがあるが、私が直接知っている範囲では、複数の妻を持つ者はいなかった。

 

彼等の一夫多妻と日本の亭主関白は、しばしば話題となる。イスラム圏と日本の女性は、虐げられた気の毒な存在である、とヨーロッパでは(日本でも)しばしば報道される。実際のところはどうであろうか。

 

これはオトメから聞いた語学教室での出来事である。

彼女の通っていたボランティアの語学教室は、平日の昼間に開催され、参加者は全員女性であった。この教室に2人のイスラムの妻が参加しており、一夫多妻が話題になったことがあった。

 

彼女たちの夫は、いずれも妻は一人であったが、彼女たちの話によると、妻が複数の場合は、年長の妻が姑のような役割を果たして家事を指導するそうである。仕事が分担されるので楽であり、殆どの場合は仲良くやっている、とのことだった。年長の妻は、若い妻に夫を懐柔するコツなども伝授するそうである。

  

ヨーロッパの国々からの参加者は口々に「信じられない」と顔を見合わせ、当然のように一夫多妻を批判した。男性ばかりが自由で、女性の自由の無い彼女たちの国を・・・

 

ところが、イスラム女性に同情していたつもりが、イスラムの妻たちは自分たちの国を侮辱されたと感じて猛反発し、大激論に発展した。彼女たちは

 

 「あなたたちの自由って、何よ! イギリスの女みたいに、男を

  しょっちゅう取り換えて、結婚してからも自由に不倫すること!?」

 

 と、教師までも反撃の対象として論陣を張る。

 

信念を持つ人々は強い。家庭と社会の秩序について、実績に裏付けられた絶対の自信を持っている。論理には1分の隙もなく、堂々たる態度で一歩も引かない。

ヨーロッパの女性たちは、家庭と社会の秩序に自信を欠く上に、個人的にも身に覚えのある痛いところを突かれ、たじたじとなった。オロオロとオトメの顔色を伺うが、彼女のスマイルは、どうも自分たちに味方しているように見えない。結局、ヨーロッパ勢は総崩れとなった。

 

争点のはっきりしたディベートの実戦訓練となり、語学教室の授業としては、大変に充実した一日だったようである。

  

 

 

客のもてなしは男の役割

 

ある夜、緊急に帰国することになったアラブの友人から、電話があった。電話は空港からである。ある男と翌朝に会う約束をしていたが、会えなくなったので、彼の家を訪問し、状況を伝えて欲しい、ということである。その男の家には電話が無く、私が直接訪問するしかないとのことだった。

 

夜のかなり遅い時間であったが、私は大至急、教えられた住所へ向かった。到着すると、家の明かりはまだ灯っていたので、躊躇はあったが、思い切ってドアベルを鳴らした。

 

男が私を出迎えた。すでに寝支度と思える出で立ちであったが、彼は私が話し出す前に、まず私を家に迎え入れた。子供たちを風呂に入れていたと思われる彼の妻が、部屋の奥に見え、目が合った。子供たちの髪はまだ濡れており、バスタオルを使っている最中である。遅い訪問の詫びと挨拶を述べようとしたが、彼女は私の姿を認めると、すぐさま小さい子を抱きかかえ、他の子供たちを連れて素早く階段を上り、2階へ姿を消した。

 

男は私にソファーを勧めると、キッチンへ行き、自ら茶を立てて運んで来た。そして初めて私の話を聞いた。話を聞き終わると、彼は礼を述べ、私たちは改めて互いに自己紹介をして、短時間ではあるが、世間話をした。その途中、これも短時間であるが、「お祈りをする時間を許して欲しい」と言って、50cm四方ほどの小さな布の上に座り、祈りを捧げた。帰り際は私を玄関まで送り、訪問の礼を再度、丁重に述べ、私を送り出した。

 

それまでの間、2階からは、子供の声はおろか物音ひとつ聞こえてこなかった。「日本人の妻」に劣らず、イスラムの妻の行動もまた見事である。

 

 

 

余談

 

これもボランティア英会話教室での出来事であるが、参加していたインド人の女性が「自分の村では、夫が死ぬと、妻も一緒に火葬にされる風習がある」と言ったので、教室は騒然となった。「本当に、今でもそんなことやっているの?!」という口々の質問に、「最近の例では昨年にあった」と答えたそうである。これでは、金持ちの年寄りと結婚するのは、決してうまい話ではない。

 

 

そういえば、息子のカメと一緒にストーリー・テラーを読んでいた時、アラビアン・ナイトの似たような話があった。こちらはインドとは異なり、先に死ぬのが妻でも夫でも、2人同時に埋葬されるという国の話である。ストーリー・テラーは原作に忠実なはずなので、元々インドの風習を男女平等にアレンジして書かれたものかもしれない。

 

船が難破し、シンドバッドが見知らぬ国の海岸に漂着する。意識を失って倒れていた彼を見つけ、介抱してくれた男と親友になり、彼はその国にしばらく滞在する。やがてその男の妻に若い娘を紹介され、結婚する。すっかりその国が気に入り、仕事も見つけ、定住する気でいたところ・・・1年後に彼女が突然亡くなる。そして悲嘆にくれるシンドバッドに、さらに恐ろしい事態が訪れる。

 

その親友に助けを求めると、なんと

 

   「そりゃ、彼女が死んだんだから、君も死ななきゃいけないさ。

    オレだって、この女房が死んだら、もちろんそうするぜ」

 

と夫婦そろって、平然と答える・・・

 

もちろん、シンドバッドは、何とか逃げおおせた。逃げるついでに財宝を手にし、次の冒険に旅立つ。