浦島太郎の随想

物理屋の妄想タイム

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ガラパゴス列島の受験社会Ⅳ

 

前回の記事 では、大学共通一次試験の導入と国立大学の授業料値上げについて書いたが・・・

 

 

東京都の学校群制度

 

これに先立つこと数年、受験生を送り出す高校側でも、入試が大きく様変わりした。東京都で学校群制度が導入され、都立高校を受験する生徒は、地域ごとに数校を一つのグループに括った「学校群」を受験することになった。つまり、志望する高校を、個別に選択できないようにした制度である。

 

学校群制度は、公教育に特定の進学校を作らないという「平等な公教育」の政策として導入された。

 

形としては東京都独自の取り組みであったが、導入の経緯は混沌としていて、色々な報道にもかかわらず、誰が仕掛けたものか良く分からない。保守系知事の時代に始まったが、その後の長期革新政権でも堅固に継承された。この制度により、都内に相当数存在していた公立の「名門進学校」は、進学率の低い高校と抱き合わせになり、進学校としての地位をほぼ失った。

 

似たような政策は、「15の春を泣かせるな」の掛け声とともに、高校全入を目指す政策として、すでに幾つかの革新系知事の自治体で推進されていたように記憶する。その結果、京都などいくつかの自治体で、分数の加減乗除が理解できていない高校生が相当数に達するなど、深刻な学力低下がもたらされた。

 

これが社会問題化し始めたため、高校全入の動きは大きくは広がらなかったが、それでも今では全国的に、公立高校への進学は(理数科などを除き)基本的に居住地域に限定されている。そして高校の学力レベルはやや平均化され、入学はかつてより容易になっている。

 

 

共通一次政策との類似点

 

学校群制度は、形の上では東京という一自治体の政策であるが、国の政策である共通一次試験と高い共通性がある。私は学校群制度導入の背後には、文部省の誘導があったのではないかと考えている。

 

大学入試に共通一次を導入した文部省の当初の目論見は、全ての国立大学の入試を一本化することであった。文部省は、高校の学校群とセットの政策として「国立大学群」を目指していたのではないか?

 

文部省はこの段階では、授業料を値上げする意図は無かったのかもしれない。描いていたプランはむしろ、国立大学を低料金の大衆大学と位置付け、高校格差・大学格差の無い「平等な公教育」を達成し、入試地獄を解消したヒーローとなる。

 

そして、個別入試で選抜する私立大学はブランド化される・・・

 

 

格差社会への序章

 

学校群制度の推進者は、公教育に進学校が存在することを不平等と断じ、庶民を含めて誰でも利用できた有力大学へのルートを封鎖した。これは与えないことで均等化を図る貧乏平等主義の発想であり、このような「他人の脚を引っ張る」政策は、得てして平等とは正反対の方向へ向かわせる。

 

一つのルートが塞がれれば、人は別のルートを探し出す。首都圏では、富裕層の子弟は私立の進学校に進学する道を選んだ。

 

私立の高校は急成長し、10年後には、かつて底辺校と呼ばれていた私立高校の多くが名門進学校に変身した。とくに中高一貫教育の私立校は人気が高まり、中学で受験する子供たちを教える学習塾が膨大な数に膨れ上がった。

 

人々が進学校を選ぶ主要な目的は、相変わらず、一部の国立大への橋渡しである。単に公立の進学校が私立の進学校に入れ替わっただけであり、唯一の違いは、学費が高額になったことであった。そして入試地獄は解消されるのではなく、低年齢層にまで降りてくる結果となった。

 

公立高校全盛時代の学習塾は、健全な学習を妨げるものとして、学校と陰に陽に対立関係にあり、社会的にも非難を浴びる日陰の存在であった。しかし公立中高の教育力の弱体化が歴然となるにつれて、公立学校の生徒も次第に学習塾に頼るようになり、社会の批判は薄れて行った。

 

そして機が熟したと見たか、当時の中曽根首相は、ある日突然、報道陣を引き連れて都内の有名進学塾を視察訪問し、「高度な人材を育てる拠点」と持ち上げて、人々を驚かせた。これを契機に、学習塾は日陰の存在から表舞台に顔を出すようになり、やがて諮問委員会のメンバーとして、教育行政にまで口を出す存在となった。

 

 

私立大学、私立中高、学習塾・・・という一連の変化の流れは、高等教育に至る教育費を庶民の手の届かないレベルにまで高騰させ、経済格差がそのまま教育格差に直結する英国型の社会構造に日本を近づけている。

 

その転換を方向づけた要因の一つは皮肉にも、日本の教育界や社会の一部に根強い平等主義であり、私はこれが巧みに利用されたのではないかと感じている。これについて、次回にもう少し詳しく考えてみたい。

 

(続く)